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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)80号 判決

原告(第七九号事件) 大野市郎

〈ほか七名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 土生照子

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 友澤秀孝

〈ほか二名〉

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

1  被告が、東京都市計画池袋二丁目付近土地区画整理事業施行者として、別紙一物件目録「仮換地指定処分の日」欄記載の各日付をもって、同目録「原告」欄記載の各原告に対し、同目録「従前の土地」欄記載の各土地につき、それぞれに対応する同目録「仮換地」欄記載の各土地を仮換地として指定した処分は、いずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二原告らの請求原因

一  被告は、東京都市計画池袋二丁目付近土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者である。本件事業の施行地区(以下「本件地区」という。)は、東京都豊島区池袋二丁目及び四丁目の各一部を包含する約二〇万五五五五平方メートルの区域である。原告らは、本件地区内において、別紙一物件目録「従前の土地」欄記載の各土地をそれぞれ所有している。被告は、同目録「仮換地指定処分の日」欄記載の各日付をもって、原告らに対し、原告らの各従前地につき、それぞれに対応する同目録「仮換地」欄記載の各土地を仮換地として指定した(以下「本件仮換地指定」という。)。

二  しかしながら、本件仮換地指定には、次のような無効事由が存在する。

1  本件事業の事業計画(以下「本件事業計画」という。)は、次のとおり憲法二九条、土地区画整理法(以下「法」という。)一条及び二条一項並びに都市計画法一三条一項に違反し無効であって、これを前提とする本件仮換地指定も無効である。

(一) 土地区画整理事業は、「都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため」に行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業である(法二条一項)から、公共施設の整備改善とともに宅地の利用の増進を図ることが不可欠の要件となっている。土地区画整理事業が宅地所有者等の権利者に対して宅地を無償で提供させるものであるにもかかわらず、憲法二九条に基づく損失補償を要しないものとされている理由は、右事業によって宅地所有者が宅地の利用増進による利益を享受し何ら損失を被らないことにあり、このことが当然の前提になっているのである。したがって、特定の事業計画の内容が宅地の利用増進を図るものでないときは、当該事業計画は憲法二九条及び法二条一項に違反し無効であるといわなければならない。

(二) 本件事業計画は、本件事業の目的として、「城北特に池袋駅周辺の車両の交通能率増進のため、都市計画街路補助第七三号及び同第一七三号路線の造成を主目的とし併せて池袋駅付近を中心とした土地区画整理事業の施行中である区域の事業効果の増進並びに付近一帯の宅地利用の合理化を図る」ことを掲げている。これによって明らかなとおり、本件事業計画は、都市計画街路補助第七三号線(以下「七三号線」という。)及び同第一七三号線(以下「一七三号線」という。)の二つの幹線街路を本件地区内に造成するためのものであり、その道路用地二万三七一一・〇六平方メートルを生み出すため平均減歩率二一・一パーセントという過大な減歩を行おうとするものである(ちなみに、右幹線街路の造成がなければ、一二・三パーセントの減歩で足りるのである。)。本件地区は、一体的な生活圏を形成している既成の市街地であって、小規模な住宅や小商売業者の店舗が多数立ち並んでおり、原告らの各従前地を含めて宅地のほとんどは零細な規模のものであり、住民はこれを住宅敷地あるいは営業の本拠地として最有効に利用している。本件事業によって地価の上昇が見込まれるわけではないが、住民にとって宅地の利用増進とは、土地の商品価値の増加ではなく、土地の居住地としての利用価値の増加であり、全体的な居住環境の改善により右利用価値が増加することにある。本件地区内の右のような狭小宅地の場合、減歩は、即、居住地としての利用価値の低下につながるから、減歩を補填するに足りる環境の改善が見られない場合には財産権の侵害そのものであり、健全な市街地の造成を図ろうとする法一条の目的にも違背するのである。ところが、本件事業計画は、減歩に見合った居住環境の改善をもたらすものではなく、本件地区内の日照、通風、静穏等の居住環境をむしろ悪化させるものであり、宅地の利用増進を図るものとはいえない。七三号線、一七三号線及び区画街路が配置されることにより空地率が高まるが、それにより本件地区内の防災面等における居住環境が良好になるものではない。本件地区内の従前の道路率が低かったとはいえ、各自が私道を設け、緑や空地も見られ、隣人間の交流もあり、防災への互いの戒めも働いていた。ところが、仮換地の指定によって狭小化された宅地の中で高度利用のためのビル化が始まり、建物間の密着度が進み、住民の防災上の不安はむしろ高まり、日照、通風も悪化しているのである。また、七三号線及び一七三号線は、本件地区内の交通量を増加させるだけで、一体的な生活圏を分断し、本件地区内の商業を衰退させるばかりか、交通公害によって本件地区の居住環境を一層悪化させるものである。本件地区は北側で川越街道(放射八号線)に接しており、それによる振動、騒音、排気ガス等の交通公害により、地区内の住民は本件事業の施行前から既に多大の被害を受けている。七三号線は川越街道と池袋駅西口を結ぶ通過道路であるが、川越街道に加えて広幅員の七三号線、更には一七三号線が築造されると、騒音、排気ガス等の交通公害が更に進行することは明らかである。先ごろ豊島区が策定した「再開発基本計画」によると、生活道路を中心としたいわゆるオープン・スペースを考えるべきであって、七三号線及び一七三号線は生活環境の整備計画に反し、その貫通の意味は疑問であるとされている。また、都市計画は当該都市の公害防止計画に適合したものでなければならない(都市計画法一三条一項後段)ところ、本件事業計画で設計された都市計画街路七三号線及び一七三号線の築造による公害発生の予測値は、「東京地域公害防止計画」の基準を超えているのである。

(三) 以上、要するに、本件事業計画は、幹線街路である七三号線及び一七三号線の造成を目的とするものであって、右造成に伴う減歩を補填するだけの居住環境の改善をもたらさないばかりか、宅地の狭小化と交通公害によって本件地区内の居住環境をむしろ悪化させるもので、宅地の利用の増進を図るものとは到底いえないのである。そうであるとすれば、本件事業計画は、法一条の目的に反し、法二条一項の要件を具備せず、かつ、都市計画法一三条一項にも違反し、更には正当な補償なしに宅地所有権等の権利を強制的に収用するものとして憲法二九条に違反し、無効であるといわなければならない。そして、無効な本件事業計画を前提としてなされた本件仮換地指定は当然に無効というべきである。

2  本件事業計画は手続的違法により無効であり、これを前提としてなされた本件仮換地指定も無効である。

すなわち、事業計画は、都市計画事業の基本をなすものであり、爾後の手続は事業計画の執行段階ともいうべき関係にある。したがって、事業計画がいかに策定されるかは、施行地区内の住民の権利義務に重大な影響を及ぼすものであるから、事業計画の決定前にあらかじめ住民全体に内容を周知させ、広く意見を徴することが適正手続の保障として不可欠であるといわなければならない。しかるに、被告は、本件事業計画についてかかる住民参加の手続を履践せず、一方的に事業計画を決定した。住民に対して初めて事業計画の説明を行ったのは、本件事業計画決定後のことであり、しかも、その内容は住民が正しく理解できない不十分なものであった。また、昭和四六年に本件事業計画の第一回の変更を審議した東京都都市計画地方審議会が、「補助街路第七三号線の地下道化、自動車排気ガスによる環境阻害の防除、地元に対する過重負担の軽減等意見書の内容に関し、住民と更に話し合い、合意を得られるよう都において今後一層努力すること」という附帯意見を付したにもかかわらず、被告は、一部の者を別として、地元住民との話合いを欠いたまま、突如として仮換地指定をするに至ったものである。要するに、被告は、本件事業計画変更の要件である同審議会の附帯意見を無視したのである。したがって、本件事業計画は、住民の意向を無視したものであって、右の手続的違法により無効であり、これを前提としてなされた本件仮換地指定も無効であるといわなければならない。

3  本件事業の仮換地指定は、その方法に次のような違法があって無効であり、その一環である本件仮換地指定も無効である。

仮換地指定は「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合又は換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」(法九八条一項前段)に許されるものであるところ、将来換地として指定されるべき土地の位置範囲を仮に指定する換地予定地的仮換地指定は、換地処分を行うためのものであって、換地計画を定め、それに基づき行う必要がある。本件仮換地指定も換地予定地的仮換地指定であるところ、被告は、法所定の換地計画を定めず、関係権利者に換地計画に対する意見書提出の機会も与えなかったものであるから違法である。更に、被告は、本件地区を工区に分けていないのに、数街区ごとに仮換地指定を行い、順次公共施設工事を完成させている。しかし、このような方法では、住民において、本件地区全体の仮換地指定がどうなるかを知ることができず、自己の仮換地が他と比較して公平平等なものであるか否かを十分検討できない上、数街区ごとに既成事実が作られていくため、その変更を求めることが事実上できなくなるから、右の方法は、関係権利者に認められた仮換地指定に対する不服申立て、争訟の権利を事実上奪うものとして違法であるといわなければならない。

4  本件仮換地指定の前提となった換地設計案は、その作成手続に次のとおり公平の原則及び適正手続に反した違法があるから無効であり、これを前提とする本件仮換地指定も無効である。

(一) 被告は、換地の位置、形状に関する換地設計案を昭和四八年五月二八日から同年六月一〇日まで関係権利者の閲覧(仮縦覧)に供し、更に関係権利者の意見を聴いて修正した換地設計案を昭和四九年七月一七日から同月三〇日まで関係権利者の閲覧(仮縦覧)に供した。ところが、被告は、右の換地設計案作成前の段階で、土地区画整理審議会委員等一部の関係権利者から換地設計についての意見を既に徴しており、仮縦覧前にこれらの者から提出された要望書を受理し、換地設計案を作成する際の参考資料とした。これに反し、原告ら大多数の関係権利者に対しては、このような意見書提出の機会を与えなかった。本来全関係権利者を通じて平等公平に行われるべき換地設計案の作成手続に右のような不公平な取扱いがなされたのであるから、右の手続には公平の原則に違反した違法がある。

(二) 被告は、換地設計案の作成に当たり、同一権利者の二筆以上の飛地について合併換地をするか否かを決定する際、当該権利者の要望があるかどうかを基準としている。しかし、合併換地は、全体の権利者を通じて適正に行われるべきものであり、単に要望の有無によって権利者間に差異を設けることは不公平な取扱いであり、公平の原則に違反した違法があるものといわなければならない。

(三) 被告は、換地設計案の作成に当たり、通り抜けの私道についてはこれを換地交付の対象とせずに金銭清算の対象とすること(以下「私道処分」という。)とし、そのための現況調査を実施したが、その際重大な利害関係を有する関係権利者に対して、単なる宅地の境界確認であると説明して立会を求めたにとどまり、真実の目的が私道処分にあることを故意に秘して一切説明しなかった。これは、被告が私道処分に関して関係権利者を欺罔したものであるといっても過言ではない。また、被告は、私道処分に当たり、関係権利者の意見を全く聞かなかった。したがって、私道処分の手続は、適正手続に違背し違法であり、これに基づく換地設計案の作成も手続的に違法である。

5  本件事業の仮換地指定及びその一環である私道処分には、次のとおり公平の原則に反した取扱いが存する。土地区画整理事業は、施行地区内の各権利者の減歩によって公共施設の用地を生み出し、残りの宅地を全権利者で分配するものであるから、一部の者に対し合理的理由もなく不当な利益を与えれば、そのしわ寄せが他の権利者に波及し、全体の仮換地指定が違法となるものである。したがって、本件事業の仮換地指定は右の不公正により違法となり、その一環である原告らに対する本件仮換地指定は無効というべきである。

(一) 被告は、街区番号四に従前地を所有し土地区画整理審議会委員の地位にある者に対し、特別に有利な仮換地指定を行っている。すなわち、本件事業計画の当初の設計図では、右従前地を縦断する南北の区画街路が設計されていたが、昭和四七年二月二八日付け告示による変更後の設計図では右区画街路が廃止された。その上で、右委員に対し、右従前地と私道奥に位置していた飛地についての合併仮換地として、街区番号四の角地が交付された。なお、右の設計変更に伴い、街区番号一〇に設けられる公園の面積が縮小され、原告らの各仮換地に近い街区番号五五の公園面積がそれだけ増えることになった。更に、被告は、いずれも土地区画整理審議会委員の地位にある者に対し、私道奥の不整形な従前地につき街区番号二三の角地を交付し、あるいは私道奥の二筆以上の飛地につき街区番号三七又は六一の角地を交付している。また、被告は、日本基督教団池袋西教会(以下「訴外教会」という。)に対し、二か所に離れた従前地について七三号線沿いの角地を減歩なしに合併仮換地として指定している。このように、被告は、仮換地指定に際し特定の権利者に対してのみ特別の配慮を加え有利に取扱っているのであるから、被告の仮換地指定は著しく不公平であるというべきである。

(二) 被告は、私道処分を行うことを原則としているにもかかわらず、池袋二丁目八九三、八九六及び八九七の各番地先の私道については、例外的に私道処分をせずに存置した。しかし、このうち八九三番二及び八九六番六の私道は、公道から公道に通り抜ける私道ではないから、もともとこれを存置する必要はないし、それ以外の私道についてもこれを存置する合理的理由はない。また、右のうち八九六番六と同番九の私道は、元来八九六番一の宅地所有者が右の宅地を利用するために設置したものであるにもかかわらず、被告は、八九六番一の仮換地を他の街区に指定しながら、必要性のなくなったはずの右私道を存置させている。被告のこのような措置は、私道を利用している借地人等の便宜を考慮したものであろうが、本来この問題は当該借地人等が解決すべき事柄であり、私道の利用上何ら利益を享受することのない宅地所有者の犠牲において解決されるべきことではない。右のとおり被告の私道に関する取扱いは、一部の者に特別の利益を与える一方、他の者の権利を侵害する方法で行われているのであるから、著しく不公平というべきである。

6  本件仮換地指定は、次のとおり照応の原則に違反し無効である。

(一) 原告らの各従前地を含む本件地区内のほとんどの宅地は零細な宅地であるから、仮換地指定に当たっては法九一条、九二条に則り宅地の地積の規模が適正になるよう十分に配慮さるべきであるにもかかわらず、宅地を更に狭小化する仮換地指定になっているため、宅地権利者は狭小な宅地の中でやむなく高層化するなど従前以上に不整な建物を建築し、健全良好な市街地の造成に背反するような状況が現出している。そのため、原告らの各仮換地は、日照、通風、地形、環境において原告らの各従前地とは照応しない結果となっている。

(二) 原告らの各仮換地がその従前地と照応しない理由は、次のとおりである。

原告大野の従前地は長方形で道路に面していたが、その仮換地は五角形で利用上支障があり、角地にあるため車両の通行による騒音等の被害が発生し生活環境は悪くなった。原告大野の仮換地は、地形、環境において従前地と照応しないものである。

原告山岡は、昭和二七年以来従前地上に建物を所有し、二階を賃貸していた。従前地は道路に面していたほか生活道路も備わっていて防災上特別不安はなく、従前地と川越街道の間に道路があったため、川越街道の騒音、排気ガス等の影響が多少緩和されていた。一方、仮換地は、川越街道に更に近くなっており、これに七三号線が開通すると、騒音等の被害が増大し生活環境は著しく悪化する。

原告鈴木の従前地は道路に面しており利用価値が大きいのに対し、仮換地はこれには及ばず生活環境は悪化した。

原告大森の従前地は本件地区の北西端に位置し、本件事業による受益は相対的に低いにもかかわらず、減歩率は一三パーセントにも上っている。また、従前地は道路に面していたが、静かな環境にあったのに対し、仮換地は角切りによる不整形な角地であるため、前面間口を有効に利用できない上、車両の通行による騒音等の被害があり生活環境は著しく悪化した。

原告松村爽は、川越街道の拡幅工事の際に土地を収用され、振動、騒音等に悩まされている上、従前地は病院と住宅の敷地であって、これ以上地積が減少し建物の除去を強いられると、病院経営は事実上不可能になってしまう。

原告松村ヨシ子は、原告松村爽の妻であり、川越街道の拡幅工事の際土地を収用され、振動、騒音等に悩まされている。従前地の前面は川越街道であったが、東と南には生活道路があり、病院関係者の車両の出入時に好都合であった。一方、仮換地の東は道路であるが、南には道路がなく不便であり、生活環境は著しく悪くなった。

原告西村の従前地は本件地区の北西端に位置し、本件事業による受益は少ないにもかかわらず、減歩率は一三パーセントに上っている上、七三号線が開通すると川越街道へ抜ける車両が区画街路を通過し、騒音等の被害が増大するから、生活環境は著しく悪くなる。

原告池田の従前地はわずか四四・六二平方メートルの過小宅地であるから、地積については特に配慮すべきであるのに、仮換地は三八平方メートルにすぎず、その減歩率は一四・八パーセントに上っており、街区番号五三内の宅地と比較しても著しく高いほか、隣接地と段差があり、日照、通風等の生活環境は著しく悪い。

7  よって、原告らは、本件仮換地指定が無効であることの確認を求める。

第三原告らの請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一は認める。

二  請求原因二1のうち、本件事業計画が原告ら主張の目的を掲げており、七三号線及び一七三号線の造成を目的の一つとしていること、本件事業の平均減歩率が二一・一パーセントであること、本件地区が住宅や小売業者の店舗の存する地域であること、本件地区は北側で川越街道に接していること、七三号線は川越街道と池袋駅西口を結ぶ道路であること、従来地元に説明した七三号線に関する公害発生の予測では夜間の騒音が東京地域公害防止計画の目標値をごくわずかながら超えていることは認めるが、その余は争う。

同2のうち、東京都都市計画地方審議会が原告ら主張の附帯意見を付していることは認めるが、その余は争う。

同3のうち、被告が本件地区を工区に分けていないこと及び数街区ごとに仮換地指定を行っていることは認めるが、その余は争う。

同4のうち、被告が換地設計案を原告ら主張の期間関係権利者の閲覧に供したこと、被告が現地調査を実施し関係権利者の立会を求めたことは認めるが、その余は争う。

同5のうち、豊島区池袋二丁目八九三及び八九六の各番地先の私道については私道処分を行わずに存置したことは認めるが、その余は争う。

同6及び7は争う。

第四被告の主張

一  本件事業の概要は、次のとおりである。

1  本件事業計画で定める事業の概要は、次のとおりである。すなわち、本件事業の施行地区(本件地区)は、豊島区池袋二丁目及び四丁目の各一部を包含する区域で、国鉄池袋駅の北方約三〇〇メートル以北に位置し、南端は池袋駅付近を中心に施行した東京都市計画第一〇地区復興土地区画整理事業の第二工区(池袋駅西口付近)に接し、北端は川越街道に接し、東端は通称平和通りに接している。施行期間は、昭和三九年度から昭和五八年度までである。そして、本件事業により整備する主な公共施設は、七三号線(幅員二五ないし二八メートル、延長六二二メートル)、一七三号線(幅員一五ないし一八メートル、延長三六五メートル)、区画街路(幅員一五メートルのもの延長三五〇・九メートル、幅員八メートルのもの延長二六二五・八メートル、幅員五メートルのもの延長三一三五・九メートル、幅員四メートルのもの延長六一・五メートル)及び公園(二か所、総面積約〇・二ヘクタール)である。

2  本件事業計画の基本的考え方は、次のとおりである。すなわち、本件地区は、池袋駅西口の繁華街に隣接する商住混在の密集地で、豊島区内でも有数の高い人口密度を有し、木造ないし簡易耐火造りの建物が密集しているため、一たび火災が発生すると延焼する危険性が高い上、人車混合の細い街路が日常の通行のみならず消防活動にも多大の支障をきたしているのが現状である。このような火災発生時の延焼、とりわけ地震による二次災害としての火災を効果的に防止するためには、自然発生的に形成された街区の体系を改善し、計画的に公共施設を整備することが急務である。そこで、被告は、本件事業計画を策定するに当たり、本件地区の災害に対する安全性を、宅地の利用増進及び副都心としての機能拡大への対応の中で実現することを目指し、都市計画街路、区画街路及び公園を、主として災害発生時の消防、避難及び救急活動のための基盤として整備することとした。本件事業が完成すれば、本件地区の総面積に対する道路、空地の割合は従前よりも高くなり、耐火建築物等の延焼阻止要因が増加し、道路の整備によって消防活動が強化され、延焼の危険性が軽減されること等を通じて、災害に対する安全性を強化できるのである。

3  昭和三九年四月一六日付け建設省告示第一二〇五号をもって、土地区画整理を施行すべき区域の都市計画決定が告示され、本件事業の施行区域が定まった。そこで、被告は、本件事業計画案を作成し、東京都知事は、同年一〇月一日から同月一四日までの間、本件事業計画案を公衆の縦覧に供し、利害関係者から提出された意見書について法所定の手続を履践した。被告は、昭和四〇年一月二一日本件事業計画を決定し、東京都知事は、同月三〇日東京都告示第九三号をもって、その旨の公告を行った。

その後、昭和四三年一二月二八日付けの都市計画決定により、従前の区画街路第五四号線(幅員一五メートル)が都市計画街路(一七三号線)に変更されたこと等に伴い、昭和四五年八月四日から同月一七日までの間、本件事業計画変更案を公衆の縦覧に供し、提出された意見書について法所定の手続を経た後、昭和四七年二月二八日付け東京都告示第二一三号をもって本件事業計画変更の公告を行った。右事業計画変更の内容は、一七三号線に関するもののほか、街路計画・街区割の変更、公園計画の一部変更等である。

4  被告は、本件地区の土地区画整理審議会委員と施行者で構成される協議会を昭和四三年九月一八日から昭和四八年五月一一日までの間、延べ四八回にわたって開催し、換地設計について検討を加えた後、換地の位置と形状を内容とする換地設計案を同月二八日から同年六月一〇日までの間、関係権利者の閲覧(仮縦覧)に供したところ、九六六名の関係権利者が閲覧し、二四三通の意見書が提出された。そこで、被告は、同年七月二五日から同年一一月三〇日までの間、延べ一一回にわたり協議会を開催して意見書の検討を行い、更に、同年一二月一九日から同月二一日までの間及び昭和四九年一月二八日から同月三一日までの間の二回にわたり、意見書提出者に対する説明会を開催し、同年三月一四日から同年七月一〇日までの間、五回にわたり開催した協議会において、関係権利者から出された意見、要望等を報告、説明した。

なお、被告は、同年三月二三日物価上昇による事業費の増額に伴う資金計画の変更を内容とする本件事業計画の変更を行い、同日付け東京都告示第二九一号をもって公告した。

5  被告は、換地の位置及び形状のほか、地積、周囲長及び指数をも内容とする換地設計案を作成し、昭和四九年七月一七日から同月三〇日までの間、関係権利者の閲覧(仮縦覧)に供したところ、七七五名の関係権利者が換地設計案を閲覧し、一三二通の意見書が提出された。そこで、被告は、同年九月一〇日から昭和五〇年二月六日までの間、延べ一一回にわたって協議会を開催し、その間に検討を終った池袋四丁目についての意見書の提出者中で説明を必要とする二五名の関係権利者に対し、同月一五日から同月一七日までの間説明会を開催し、そこで出された意見、要望等を同月一九日及び同年三月一九日に開催した協議会で報告、説明した。他の区域についても、順次同様の手続で説明会を開催した。

6  被告は、本件地区のうち意見書の処理を終えた池袋四丁目の区域について、将来定めるべき換地計画の一内容となる換地設計を作成し、昭和五〇年三月二七日換地設計及びそれに基づく仮換地指定を土地区画整理審議会に諮問したところ、承認する旨の答申を得た。そこで、被告は、同年七月一六日に第一回の仮換地指定を街区番号六三及び六四の権利者二一名に対して行ったのを皮切りに、昭和五一年二月一日に第二回の仮換地指定を街区番号六〇ないし六二の権利者六九名に対して、同年五月六日に第三回の仮換地指定を街区番号五四、五六及び五七の権利者五三名に対して、それぞれ行い、その後も順次仮換地指定を行っている。原告らに対する本件仮換地指定は、このうち第一回の仮換地指定の際に行われたものである。

二  原告らは、本件事業計画は憲法二九条等に違反すると主張するが、以下のとおり理由がない。

1  土地区画整理は、講学上公用換地と呼ばれ、公用負担の一種類とされている。これは、土地区画整理も土地収用等と同じく公益上必要な特定の事業の需要を満たし、又は特定物の効用を全うするために私人に課せられた公法上の経済的負担といえるからである。宅地の所有者及び借地権者の意思に基づいて事業計画及び換地計画が決定される個人施行又は組合施行の場合を除いて、土地区画整理事業施行後の宅地の価額の総額が施行前の宅地の価額の総額より減少した場合には、その差額に相当する金額を、従前の各宅地の価額及び各使用収益の価額に按分し減価補償金として交付しなければならないものとされている(法一〇九条一項)が、これは損失補償にほかならない。また、換地計画を定めるとき不可避的に生ずる権利者相互間の若干の不均衡を是正するため、従前の宅地と換地相互の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、不当に利得した者から金銭を徴収し、損失を受けた者に対して金銭を交付することにより不均衡を清算するものとされている(法九四条一項)。

このように、土地区画整理事業によって権利者が損失を被むるときは、正当な補償が予定されているのであって、本件事業計画もこの原則の下に作成されている。本件事業の施行前と施行後の宅地価額を比較すると、区画の整理、区画街路の造成等本件事業の施行によって客観的取引価値は上昇しているが、仮に、減歩による損失のうち宅地の客観的価値の上昇で補填されない部分があるとしても、それについては損失補償(減価補償金の交付)によって補填されることになるのであって、そのことにより本件事業計画が憲法二九条に違反することになるものではない。そして、もし減歩により受けた損失よりも少ない減価補償金しか交付されなかったというのであれば、減価補償金の増額請求をすれば足りるのである。

2  本件地区内の建物は、二階建程度の木造ないし簡易耐火造りで密集しており、そのうちの三割近くが建築基準法上の不適格建築物で、宅地も公道に面していないものが多く、下水道の入っていないところもあり、道路は非常に入りくんでおり、空地も少なく、三割弱の宅地が消防庁から消防活動困難区域として指定されている。本件事業計画においては、災害の発生を防止し、健全な市街地を造成することを目的として、道路、公園等公共施設の整備改善を図るものとしている。本件事業が完成すると、道路、公園等の公共用地が本件地区に占める面積の割合は、施行前の九・一一パーセントから施行後の三二・九八パーセントとなり、道路のみについてみても九・一一パーセントから三二・〇二パーセントになって、災害に対する安全性の強化並びに環境の改善が実現される。したがって、本件事業計画により、本件地区内の宅地は、全体として施行前に比べ利用の質的な向上が期待されることは明らかである。

また、被告は、減歩による宅地の細分化を最小限度に止めるため、幅員一一メートル以上の街路の築造に要する地積を減少率緩和のための用地買収地積にすることとし、昭和四四年度から昭和四六年度にかけて買収を行い、本件事業計画の平均減歩率二六・二パーセントを二一・八パーセントに減少させた。更に、昭和四六年一二月二七日の東京都都市計画地方審議会答申の附帯意見に従い、昭和四七年度においても用地買収を行い、平均減歩率を更に二一・一パーセントまで緩和した。こうして、被告が減歩率緩和のために取得した土地は延べ一万二一七二平方メートルに及ぶ。

3  ところで、土地区画整理事業の事業計画は、公共施設に関する都市計画が定められている場合においては、その都市計画に適合して定めなければならない。しかるところ、七三号線は昭和二一年四月二五日付けで、一七三号線は昭和四三年一二月二八日付けでそれぞれ都市計画街路として決定されているため、本件事業計画は、右都市計画に適合するよう、公共施設の整備改善として両線の造成を行うことを定めているのである。そして、七三号線及び一七三号線は、池袋駅西口と川越街道及び川越街道と山手通りを結ぶ商品販売の街路として、本件地区内に発生する交通を効率よく安全に幹線街路へ誘導する街路として、通勤・通学・買物等に使用される地域サービス街路として必要な補助街路であり、通風・採光、防災及び水道管等都市施設収納のために必要な都市空間である。

七三号線及び一七三号線が完成すると、従前よりも周辺の騒音、大気汚染が増大するものと予想される。しかし、本件地区住民との話合いの結果、七三号線について採用される可能性の大きい別紙二記載の往復二車線平面道路構造をとれば、夜間の騒音の点で東京地域公害防止計画にごくわずか抵触するものの、それは適宜交通規制等を行うことによって回避することが可能であるし、生活圏の分断による影響も大幅に緩和することができる。ちなみに、原告らは、七三号線及び一七三号線から離れたところに所在しているから、騒音等の影響をほとんど受けない。なお、豊島区の「再開発基本計画」は、七三号線及び一七三号線の建設を促進すべきものとしている。

三  原告らは、本件事業計画にはその決定につき住民参加の手続を履践しない違法があると主張するが、前叙のとおり、被告は、本件事業計画の決定に当たり、事業計画案を公衆の縦覧に供し、利害関係者から意見書を徴して法所定の手続を履践したほか、住民との話合いに努力し、説明会も開催した。別紙二記載の道路構造案は、その話合いの成果の一つである。

四  原告らは、被告が法所定の換地計画を定めずに換地予定地的仮換地を行ったこと及び本件地区を工区に分けていないのに仮換地指定を数街区ごとに行っていることは違法であると主張するが、以下のとおり理由がない。

換地計画を定めないで行った換地予定地的仮換地指定が適法であることは判例上も認められている(東京地裁昭和三九・五・二七行集一五・八一五ほか)。すなわち、換地計画を定めずに仮換地を指定する場合でも、施行者は法九八条二項により同法に定める換地計画の決定の基準を考慮して仮換地を指定しなければならず(法一〇三条一項)、換地計画に不満のある関係権利者は、法八八条三項ないし七項により意見書を提出し、その審査を経て換地計画に修正を加えてもらうことが可能であり、換地計画を定めた場合に比して特に実質的な不利益を受けるものとはいえない。

法九八条二項は、単に「……工事のため必要がある場合」と規定しているのみであるから、直接工事の対象となった宅地の仮換地を指定するため、その近隣の宅地について順次換地予定地的な意味で仮換地を指定する必要がある場合も、右の規定に含まれるものと解すべきである。また、一般的に、換地計画を作成するためには、宅地について権利の実態調査、換地の基準となる従前地の地積の決定、土地区画整理審議会委員の選挙、宅地の評価、換地設計の作成、清算金額の算定、町名地番の整理等の作業が必要であり、早期に換地計画を決定することは必ずしも容易でなく、換地計画が定められるまでは工事の施行ができないとすれば、土地区画整理事業の進捗を著しく阻害する結果となる。被告は、土地区画整理事業を施行する際には、清算金額の算定、町名地番の整理等を除き、実質的に換地計画の主要部分を定めて仮換地指定を行っている。仮換地指定に先立って換地計画を作成しても、工事の施行に時間を要し、一度算定した清算金額を換地処分時に再度算定し直さざるを得ず、また、町名地番の整理等は関係権利者の権利に直接影響を与えるものではない。本件事業においても、将来の換地計画の一内容となるべき換地設計案を作成し、関係権利者の仮縦覧に供し、意見書提出の機会を保障し、提出された意見書を審査し、その結果を協議会に説明、報告した上、意見書の内容を換地設計案に反映させ、これに基づいて仮換地を指定している。したがって、関係権利者の権利保護に何ら欠けるところはない。

また、法九八条二項は、順次仮換地を指定する必要がある場合も含んでいるから、数街区ごとに仮換地指定を行うことは何ら違法ではない。換地設計案は、本件地区全体について作成され、関係権利者に仮縦覧されており、単に意見書の処理が数街区ごとに行われているにすぎない。

五  原告らは、換地設計案の作成手続には公平の原則及び適正手続に反した違法があると主張するが、以下のとおり理由がない。

たとえ一部の関係権利者から換地設計案作成前の時点で意見書が提出されたとしても、被告としてはこれを無視することはできない。被告は、換地設計案についてはすべての関係権利者に平等に意見書提出の機会を付与している。当初換地設計案を仮縦覧したところ、九六六名の関係権利者が閲覧し、二四三通の意見書が提出されたのであり、また、その後の換地設計案の仮縦覧においても七七五名の関係権利者が閲覧し、一三二通の意見書が提出されたのであって、被告は、その都度関係権利者の意見を換地設計案へ反映すべく努めてきた。

また、合併換地にするのは、換地設計上必要かつ理由があるからであり、設計過程で宅地所有者等権利者の要望をできる限り尊重すべきことは当然であるが、一方、たとえ合併換地を希望しても、換地設計上必要がありかつ理由がなければ認められないことも当然である。また、合併換地についての意見は、換地設計案の仮縦覧の際述べることができるのである。

被告は、私道処分に関連して必要な土地の調査を行い、土地の境界確定について関係権利者の立会いを求めたが、手続としてはこれで十分であり、私道処分について個々に説明を欠いたとしても不公平であるとはいえない。私道処分は、被告が一定の基準に従って行っているのであり、関係権利者は換地設計案の仮縦覧のときに意見書を提出することができる。

六  原告らは、本件事業の仮換地指定及びその一環である私道処分には公平の原則に違反した違法があると主張するが、以下のとおり理由がない。

1  原告らが指摘する仮換地指定について、順次説明する。なお、ここに合併(仮)換地とは、二筆以上の従前地についてそれぞれ所有権を有する場合、これらを併せて一筆の(仮)換地を指定することをいい、隣接(仮)換地とは、隣接していない二筆以上の従前地について隣接した(仮)換地を指定することをいう。

(一) 原告らが不公平を指摘する街区番号四の例は、柳沢浩気(以下「柳沢」という。)に対する仮換地である。柳沢は、池袋四丁目四五七番一及び三並びに同四四五番五の三筆の従前地について所有権を有していたが、これら三筆について合併仮換地を行った理由は、次のとおりである。

すなわち、柳沢の従前地四五七番一及び三は、同人の妻の従前地である池袋四丁目四五七番八及び九と共に一団の土地を形成し、病院敷地として利用され、また、四四五番五は同病院の看護婦宿舎の敷地として利用されていた。このため、四五七番一及び三について通常の減歩をすると、病院の現状を維持することが困難になること、四四五番五は看護婦宿舎の敷地で病院と主従の関係にあること、合併換地につき柳沢の希望があったことから、合併仮換地を行った。なお、同様に病院を経営している片山清(以下「片山」という。)に対しては合併仮換地を行っていない。これは、従前地の池袋二丁目九五四番二(所有地五五四・〇四平方メートル)池袋四丁目四四三番五(所有地四九六・〇三平方メートル)は地積が大きく、病院敷地とアパート敷地として各別に利用されていたことから、合併仮換地を行わなかったものである。また、片山から合併換地の希望も出されなかった。

(二) 原告らが不公平を指摘する街区番号三七の例は、里見正平(以下「訴外里見」という。)に対する仮換地案である。里見は、池袋二丁目一〇二六番二〇及び二一の二筆の従前地について所有権を有していたが、一〇二六番二一の地積が四二・九七平方メートルしかなかったので、地積の大きい一〇二六番二〇に合併仮換地をして宅地の利用の増進を図ることとした(ただし、仮換地指定は未だ行っていない。)。なお、三原吉次(以下「三原」という。)に対して隣接仮換地案を示していない理由は、次のとおりである。三原は、池袋二丁目九三一番二五(所有地)及び同九一一番一(借地)の二筆の従前地について所有権又は賃借権を有していたが、地理的環境が著しく異なり隣接換地が不可能であった。九一一番一は本件地区内でも一、二を争う繁華街の三業通りに面し、店舗及び居宅の敷地として利用されているのに対し、九三一番二五は住宅街にありアパート敷地として利用されていた。また、三原からは隣接換地の希望が出されていない。

(三) 原告らが不公平を指摘する街区番号六一の例は、佐久間正一(以下「佐久間」という。)に対する仮換地である。佐久間は、池袋四丁目四〇〇番四(所有地)、同四〇〇番一(借地)及び同四〇二番一(借地)の三筆の従前地について所有権又は賃借権を有していたが、これら三筆について隣接仮換地を行った理由は、次のとおりである。

すなわち、四〇〇番四の東側には、国(郵政省使用)が所有する大宅地があったが、本件事業によって設置される七三号線が右宅地の東側部分にかかるため、その仮換地先を他に求めざるを得なかった。ところが、一般に大宅地の仮換地の指定については、地積が大きいことから、他の街区に適当な仮換地を求めることが困難なため、通常同一街区内で仮換地を指定し、それによって影響を受ける小宅地の仮換地を他の街区に指定する方法が取られている。本件も、国の右大宅地について他の街区に仮換地指定することが困難であったので、同一街区内で仮換地の指定を行った。その結果、佐久間の従前地四〇〇番四の仮換地を他の街区で指定せざるを得なかった。そして、現地仮換地が不可能で他の街区で仮換地指定を行う場合、当該権利者が他の街区の従前地に権利を有するときは、その権利と併せて合併換地、隣接換地ができるように配慮するのが一般である。そこで、被告は、右三筆の従前地について付近権利者及び佐久間の要望を考慮して検討した結果、隣接換地が可能であったのでその旨の仮換地指定を行ったものである。

(四) 訴外教会は、池袋二丁目九一七番一及び池袋四丁目四六〇番六の二筆の従前地について所有権を有していたが、これらの二筆の土地について合併仮換地を行った理由は、次のとおりである。九一七番一は、池袋駅西口繁華街に接する常盤通りから入った公道に面する好位置にあった。訴外教会からは、経営する幼稚園のために一定面積の敷地が必要なので減歩の少ない土地への飛換地を希望する旨の申入れがあった。そこで、検討したところ、たまたま先行買収によって取得した土地が本件地区の中ほどから北側にかけて多かったことから、右申入れに沿うことが可能であったので、地積の小さい四六〇番六(六七・〇五平方メートル)を併せて合併仮換地を行ったものである。なお、訴外教会の減歩率は、すぐ近くの豊島区立池袋第五小学校のそれに比して低いが、訴外教会の従前地九一七番一が池袋駅西口繁華街に近い位置からこれより劣る位置に仮換地されたことに起因するもので、不公平はない。

2  本件事業においては、原則として公衆の用に供していた公道から公道に抜ける幅員約二メートルの私道は、私道処分の対象とすることにした。このような私道は、これまで準公道としての役割を果たしてきたものであり、区画整理がされると、宅地は整然と区画されて公道に面することになるから、私道を存置させる必要がなくなるからである。しかし、私道の利用状況から判断して、私道処分をすることが不合理な場合には、例外的に私道処分をしないことにした。

池袋二丁目八九三及び八九六番地先の私道の換地設計時における利用状況を見ると、私道に面する宅地は一〇筆で建物は八棟あり、そのうち私道のみを間口として営業を行っているものが六世帯あった。もし、この私道について私道処分を行うと、これまで私道に面していた者が間口を失い廃業に追い込まれることが明らかである。私道に代わる区画街路の設置も考えられるが、そのためには五メートルの幅員を必要とするので、更に減歩を強いることになる上、道路がいたずらに輻湊する結果になる。以上の検討の結果、右私道については例外的に私道処分を行わずに存置することにした。

七  原告らは、原告らの各仮換地は従前地と比較して更に狭小化するなど著しく不利益であり、照応の原則に違反した違法があると主張する。しかし、被告は、小宅地については、特例的措置として逓減方式により減歩率の緩和を図っており、更に、平均減歩率緩和のために先行買収を実施したことは前記のとおりである。原告らの各仮換地は、従前地と同じ条件にあり、照応の原則に違反するところはない。

八  以上のとおりであるから、原告らの主張はいずれも理由がない。

第五被告の主張に対する原告の認否

一  被告の主張一のうち、2は争い、その余は認める。

二  同二ないし八は争う。

なお、被告の主張する減価補償金は、換地処分の後において、施行後の宅地の価額の総額が施行前の宅地の価額の総額より減少した旨の公告が施行者によりなされた場合に交付されるものであって、宅地権利者の権利として保障されたものであるか否か疑問である上、被収用時において正当な補償をなすとの憲法二九条に適合するものとはいえない。更に、減価補償金は、客観的取引価値を基準に定められるものであって、居住地としての利用価値の低下を補償し正当化するものとはいえない。また、清算金は、関係権利者間の不均衡を是正するものであって損失補償ではない。

第六証拠《省略》

理由

一  請求原因一、二及び被告の主張一(ただし、2を除く)は、当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件事業計画は憲法二九条、法一条及び二条一項並びに都市計画法一三条一項に違反すると主張するので、この点について検討する。

1  《証拠省略》によると、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件地区は、豊島区池袋二丁目及び四丁目の各一部を含む二〇万五五五五・一〇平方メートル(六方二一八〇・四二坪)の区域であって、池袋駅西口の北方約三〇〇メートル以北に位置し、北端は川越街道に、東端は平和通りに、また、南端は池袋駅を中心とする東京都市計画第一〇地区復興土地区画整理事業の第二工区(池袋駅西口付近)にそれぞれ接している。本件地区では、戦災によって建物のほとんどが焼失し、終戦後の混乱状態の中で小規模な木造建物が無計画に次々と建築され、至近距離にある池袋駅周辺が急激な発展を遂げたため、その余波を受けて人口が増大し、著しく過密化が進んだ。その結果、本件事業計画が最初に決定された昭和四〇年当時においては、東京都内でも有数の人口密度の高い市街地になっていた。本件地区内の建物の大部分は木造あるいは簡易モルタル造りの一、二階建であって、約六五パーセントが住宅、約三四パーセントが店舗、残りの一パーセントがその他の建物であり、建築基準法上の不適格建物が多数存在した。また、本件地区内の公道は、幅員が狭隘な上に、随所に曲折、行止りの個所があって錯綜した状態であった。そのうえ、宅地のうちの約三〇パーセントは公道に面しておらず、各所に私道が作られ、消防車や救急車の入れないような極めて狭い道路も随所に見られた。そして、東京消防庁が消防活動困難区域として特に指定した個所が宅地の約三〇パーセント近くを占め、未だに下水道が敷設されていない場所もあった。また、非常時に避難できる空地はほとんどなく、公園は設置されていなかった。したがって、一たび火災、地震等の災害が発生すれば、過密状態にある木造建物等が次々と延焼する反面、臨機の消防、救急活動及び避難行動が著しく阻害され、人命及び財産に重大な被害を及ぼすおそれなしとはいえない状態にあった。

(二)  本件地区は、昭和三九年四月一六日付け建設省告示第一二〇五号の都市計画決定をもって、土地区画整理事業の施行区域と定められた。なお、本件地区内の都市計画施設としては、七三号線が昭和二一年四月二五日付けで、一七三号線が昭和三九年二月七日付けで都市計画街路として決定されていた。両街路は、城北、特に池袋駅周辺の車両の交通能率増進のため必要とされる道路である。

(三)  そこで、被告は、都市計画事業として本件地区の土地区画整理事業(本件事業)を施行することとし、本件事業計画案を作成した。そして、東京都知事において、昭和三九年一〇月一日から同月一四日まで本件事業計画案を公衆の縦覧に供し、提出された意見書一二通を東京都都市計画地方審議会に付議した後、被告において昭和四〇年一月二一日本件事業計画を決定した。その後、昭和四三年一二月二八日付けで一七三号線を延長する旨の都市計画決定がなされたこと等に伴い、本件事業計画を変更すべく、東京都知事において、昭和四五年八月四日から同月一七日まで変更案を公衆の縦覧に供し、提出された意見書三三八通を東京都都市計画地方審議会に付議した後、被告において昭和四七年二月二一日右変更を決定した。更に、被告は、資金計画の変更に伴い、昭和四九年三月二三日本件事業計画の第二回変更を決定した。なお、右第一回の変更に際し、意見書を審議した東京都都市計画地方審議会は、「補助街路第七三号線の地下道化、自動車排気ガスによる環境阻害の防除、地元に対する過重負担の軽減等意見書の内容に関し、住民と更に話し合い、合意が得られるよう都において今後一層努力すること」との附帯意見を付した。

(四)  本件事業計画は、本件地区において、都市計画街路である七三号線及び一七三号線を造成し、区画街路及び公園を設置し、宅地の区画変更を行うことを主たる内容とするものである。本件事業計画に従って工事が完成すれば、本件地区の全地積に占める道路・公園の割合は、施行前の九・一一パーセント(一万八七三一・七九平方メートル)から三二・九八パーセント(六万七八一一・四一平方メートル)に、道路の割合は、施行前の九・一一パーセント(一万八七三一・七九平方メートル)から三二・〇二パーセント(六万五八二七・九平方メートル)に増加する。また、公園は、施行前には存在しなかったが、新たに二か所設置され、その合計地積は一九八三・五一平方メートルである。更に、区画街路(幅員一五メートル、八メートル、五メートル、四メートル)の配置により、本件地区内のほとんどすべての宅地が公道に面することになる。

(五)  本件地区内における七三号線は、本件地区のほぼ中央を南北に貫通し、池袋駅西口と川越街道を結ぶ道路であり、本件事業計画によれば、幅員二五ないし二八メートル、延長六二二・四メートル、総地積一万七一二一・一一平方メートルである。一七三号線は、本件地区の南寄り部分で七三号線に交差して築造されるもので、本件事業計画によれば、幅員一五ないし一八メートル、延長三六四・六メートル、総地積六五八九・九五平方メートルである。この両街路の地積は合計二万三七一一・〇六平方メートルで、本件地区の総地積の一一・五パーセントを占める。被告は、七三号線について、当初往復四車線の道路を計画していたが、前記附帯意見の趣旨に沿って本件地区内の住民と協議を重ね、自動車公害をできる限り抑制すべく再検討した結果、昭和五三年一〇月別紙二記載の往復二車線の道路構造案を最終案としてまとめた。右の案によると、幅員二五メートル、歩道各四メートル(人道二・五メートル、自転車道一・五メートル)、植樹帯各一・五メートル、車道各六メートル(停車帯二・五メートル、車線三・二五メートル)、中央分離帯二メートルとなっている。

七三号線が開通したときの予測交通量についてみると、往復四車線が計画されていた当時の昭和四六年一〇月に豊島区が発表した「豊島区内幹線街路における将来自動車交通量の推定」中の昭和六〇年将来交通量図によれば、一日当たりの自動車交通量は四万四五三六台とされている。この数値を基礎とし、時間別交通量構成比につき東京都昭和四八年一一月発表の「放射三六号道路の影響予測調査報告書」記載の構成比、一時間の交通容量につき豊島区昭和五五年二月発表の「都市計画道路再検討基準」記載の停車帯のある二車線の場合の一九五〇台、大型車混入率につき一〇パーセント、車速につき毎時四〇キロメートルの各数値を使用して七三号線の沿線の騒音を予測すると、公害対策基本法に基づく国の環境基準及び東京都の東京地域公害防止計画目標値を超える可能性が強い。しかし、七三号線が往復二車線に計画変更された後である昭和五五年二月七日の「豊島区のお知らせ」で豊島区が発表した七三号線の昭和七五年の計画交通量は、一日一万五五〇〇台である。一日の交通量を一万五五〇〇台とした上、時間別交通量構成比等につき前記数値を使用して予測すると、七三号線の沿線における騒音は、国の環境基準内におさまり、東京都の公害防止計画目標値との関係においても、午前六時から午後一一時までの間では目標値内におさまるが、午後一一時から午前六時の間においては目標値を若干上回る可能性がある。

(六)  ところで、本件事業計画によると、平均減歩率は二六・二パーセントとなるが、被告は減歩緩和のため減価補償金予算で宅地一万二一七二平方メートルを先行的に買収し、平均減歩率を二一・一パーセントまで低下させた。ちなみに、原告らの平均減歩率は八・〇パーセントであり、原告大野五・五パーセント、同山岡九・〇パーセント、同鈴木九・五パーセント、同大森一二・三パーセント、同松村爽一・〇パーセント、同松村ヨシ子〇・八パーセント、同西村一三・〇パーセント、同池田一四・八パーセントで、本件地区全体の平均減歩率よりも低くなっている。

(以上のうち、本件地区の範囲、本件事業の手続的経緯、本件事業計画の内容、第一回事業計画変更に際して東京都都市計画地方審議会が右のような附帯意見を付したこと、七三号線が池袋駅西口と川越街道を結ぶ道路であること、本件地区の平均減歩率が二一・一パーセントであることは、当事者間に争いがない。)

2  法一条は「この法律は、……健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と定め、また、法二条一項は「この法律において『土地区画整理事業』とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。」と定めている。すなわち、土地区画整理事業は、健全な市街地を造成するため、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることを目的として行われる事業である。したがって、土地区画整理事業は、公共施設の整備改善にとどまらず、同時に宅地の利用増進をも図るものでなければならないのであって、公共施設の整備改善だけの目的で土地区画整理事業を行うことはできず、宅地の利用増進が全くないような土地区画整理事業も許されない。そして、ここにいう宅地の利用増進とは、施行地区内の宅地を全体的に評価した場合の利用価値の増進をいうのであって、個々の宅地のそれをいうものではないと解される。

3  1で認定したとおり、本件地区は、戦後自然発生的に形成された地域であって、東京都の副都心である池袋駅西口から至近距離にあり、都内でも有数の人口密集地域で、本件事業計画決定当時においては、地区内の建物は木造・簡易モルタル造りの小規模建物が大半を占め、建築基準法上の不適格建物も多数存在した。本件地区内の道路は狭隘で、公道と私道が様々に曲折し、行止りがある等かなり錯綜していた。公道に面しない宅地が約三〇パーセントあり、未だに下水道が完備していないところもあった。消防車や救急車等が入れない場合も随所に存し、東京消防庁が指定した消防活動困難区域が約三〇パーセントも存在した。右のような実情のため、一たび火災、地震等の災害が発生すると、延焼する危険性が極めて高く、大災害に発展するおそれなしとしない。本件事業計画は、本件地区内に七三号線及び一七三号線のほか、幅員四メートル以上の整然とした区画街路を配置し、公園を二か所新設し、宅地のほぼすべてが公道に面するようにしようとするものである。したがって、本件事業が施行されれば、本件地区全体が防災面で著しく改善されるほか、宅地の位置、形状、配置等が整えられ、全域で建築基準法に適合した建物の建築や下水道の設置が可能となり、交通事情も改善されるから、本件事業計画が環境の整備改善を図り、交通の安全を確保し、災害の発生を防止し、健全な市街地の造成を図ろうとするものであり、本件地区全体の宅地の利用増進を図るものであることは明らかである。したがって、本件事業計画は、法一条及び二条の目的に適合し、六条の基準に合致するものというべきである。そうだとすれば、本件事業計画につき原告ら主張のような憲法二九条違反の問題も生じない。

4  原告らは、本件事業計画は、幹線街路である七三号線及び一七三号線の造成を目的とするものであって、右造成に伴う減歩を補填するだけの居住環境の改善をもたらさないと主張する。確かに、本件事業計画は、七三号線及び一七三号線の造成を主要目的の一つとしており、これらの街路は、本件地区内の宅地利用の増進を主たる目的とするものではなく、池袋駅西口と川越街道を結び、池袋駅周辺の車両の交通能率の増進を主たる目的とする施設、すなわち主に本件地区外の住民が通過道路として利用する公共施設である。しかし、都道府県の施行する土地区画整理事業は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図る都市計画事業の一環をなすものであり、一定地区に範囲を限った上で、その中のすべての公共施設の都市計画を当該事業の中に吸収した上、減歩と換地の手法により、公共施設の整備と宅地の開発とを併せて行い、市街地の面的整備を図ろうとするものである。したがって、施行地区外の住民が主に利用する公共施設であっても、都市計画で定められたものは、その用地を減歩で生み出す必要がある。このことは、法二条一項が土地区画整理事業は都市計画区域内の土地について行われる公共施設の新設又は変更等に関する事業をいうと規定し、法六条四項が事業計画は公共施設等に関する都市計画が定められている場合においてはその都市計画に適合して定められなければならないと規定していることからも明らかである。施行地区外の住民が主に利用する公共施設の用地を施行地区内の住民の減歩で生み出すことは、一見不合理に見えるが、右用地費相当額は、土地区画整理事業に要する費用についての都道府県の負担金(法一一八条)、国の補助金(法一二一条)、公共施設管理者の負担金(法一一九条の二)の形で施行地区全域の財産、環境、利便性等をたかめることに寄与し、結局は宅地の利用増進という形で施行地区内の住民に還元されるのである。本件事業の場合も、事業に要する費用はすべて国の補助金及び被告の負担金でまかなわれるものであって、七三号線及び一七三号線の造成のための減歩による地元住民の負担は、事業費として本件地区内の宅地の利用増進のため地元住民に還元される形がとられているといえる。したがって、七三号線及び一七三号線造成のため減歩を強いられたというだけで、本件事業計画が違法であるということはできない。問題は、右の減歩に見合うだけの価値が地元住民に還元されるか否かであるが、宅地の利用増進がほとんどないというのであればいざ知らず、宅地の利用増進が見られる場合には、減歩負担との間に多少の不均衡があっても法一〇九条の減価補償金や法九四条の清算金ないし法一〇二条の仮清算金で調整すべきもので、事業計画の違法の問題は生じない。そこで、本件に即して更に検討するに、被告は宅地一万二一七二平方メートルの先行買収を行っているが、これは七三号線の地積の約七一パーセント、七三号線及び一七三号線の合計地積の約五一パーセントに相当する。これら両街路のうちでも、本件地区外の住民が主に利用するのは車道部分に限られ、その他の部分は主として本件地区内の住民が利用するものといえるから、主に本件地区外の住民が利用する車道部分の地積にほぼ相当する用地は、被告が先行買収により入手しているといえる。そして、右両街路以外の公共施設である区画街路及び公園は、主に本件地区内の住民が利用するものであるから、結局のところ、本件地区内の住民が負担した減歩は、主に本件地区内の住民が利用する公共施設、換言すれば本件地区内の宅地の利用を増進するための公共施設の用地に供されているということができる。そうだとすれば、本件事業計画によって、減歩負担にほぼ見合うだけの宅地の利用増進はもたらされるものと認めるのが相当というべきである。

次に、原告らは、本件事業計画で設計された七三号線及び一七三号線の築造による公害発生の予測値は東京地域公害防止計画の基準を超えるものであり、本件事業計画は都市計画法一三条一項に違反すると主張する。両街路の開通に伴う大気汚染等が東京地域公害防止計画の目標値を超えることを認むべき証拠はないが、七三号線の一日当たりの自動車交通量を昭和四六年一〇月に豊島区が発表した昭和六〇年将来交通量図に従い四万四五三六台と予測した上、時間別交通量構成比等につき1の(五)で述べた数値を採用して七三号線沿線の騒音を予測すると、右目標値を超える可能性が強いといえる。しかし、右予測交通量は、七三号線が往復四車線の道路として計画されていた当時のものであって、現在は往復二車線に計画変更されているのであるから、その場合の予測交通量としては、計画変更後の昭和五五年二月に同じ豊島区が昭和七五年の計画交通量として発表した一万五五〇〇台をむしろ採用するのが相当である。一万五五〇〇台を採用した場合も、時間別交通量構成比、大型車混入率、車速等につき1の(五)で述べた数値を採用すれば、午後一一時から午前六時までの間の七三号線沿線の騒音が右目標値を若干超えるおそれがあるが、右の交通量等はあくまでも一応の予測値あるいは仮定のものにすぎず、七三号線において右目標値を超える騒音の発生が確実とまではいえない。また、発生のおそれがあるにしても、それが道路交通法の規定による措置(騒音規制法一七条参照)によって防止できないものであることを認むべき証拠もない。一方、事業計画は公共施設に関する都市計画に適合して定められなければならないのであるから、本件事業計画においても都市計画街路である七三号線及び一七三号線の造成を取り入れなければならないところ、被告の計画している七三号線の構造は、別紙二記載のとおり、車線を都市計画街路の機能を保持するには最低ともいえる往復二車線に制限した上、中央帯、停車帯、植樹帯、自転車道及び歩道を設けるというもので、騒音防止には極力配慮したものといえる。以上のように、東京地域公害防止計画の目標値を超える騒音の発生が必ずしも確実とはいえず、道路交通法上の措置による防止も期待し得るという状況の下にあって、七三号線の構造自体は騒音防止のため極力配慮したものであるというのであるから、七三号線の造成を計画する本件事業計画が都市計画法一三条に違反するものと認めることはできない。更に、右騒音の発生が将来の予測に係るものであり、また、影響する範囲もその性質上七三号線沿線に限られるものであって、当の沿線住民も訴訟等で争わない程度のものであることを考慮すると、公害防止計画に係る瑕疵があったとしても、それは本件事業計画を無効ならしめる程重大明白なものとはいえないのである。

更に、原告らは、交通公害によって本件地区内の居住環境はむしろ悪化する旨主張するが、七三号線、一七三号線及び区画街路の開設に伴い、自動車による騒音、大気汚染等がある程度増加することは容易に想像できるにしても、前叙のとおり、本件地区の道路整備がかなり立ち後れ、それに伴って各種の弊害が存したことを考えると、右道路整備が本件地区の居住環境をむしろ悪化させるものと認めるのは困難である。

以上のように、原告らの主張はいずれも採用できない。

三  原告らは、本件事業計画にはその決定につき住民参加の手続を履践しなかった違法があると主張する。

1  証人安藤元雄、同高野泰治郎、同石榑葉子及び原告松村爽本人は、被告は、本件事業計画を決定するに当たり、住民に対し事前に計画内容を周知させて合意を得る努力をせず、住民を無視して一方的に決定した旨、また、被告は、昭和四〇年一月に本件事業計画を決定した直後、豊島公会堂で説明会を開いたが、説明会の日取りについて十分な予告期間をおかず、説明内容も理解しにくかった旨、あるいは、住民が本件事業の内容や減歩率を知ったのは、仮換地指定後のことであった旨供述している。

2  都道府県が事業計画を定めようとするときは、知事は事業計画を二週間公衆の縦覧に供することを要し(法五五条一項)、右事業計画について意見のある利害関係者は所定の期間内に意見書を提出することができる(同条二項)。意見書の提出を受けた知事は、これを都市計画地方審議会に付議し(同条三項)、同審議会が意見書記載の意見を採択すべき旨議決したときは、知事は事業計画について自ら必要な修正を加え、また、採択すべきではないと議決した場合は、知事はその旨を提出者に通知しなければならない(同条四項)。事業計画について、意見書提出期間内に意見書の提出がないか又は意見書を採択しなかったときは、都道府県は事業計画を決定し、知事は遅滞なく公告しなければならない(同条九項)。事業計画を変更する場合の手続も、すべて右事業計画決定の手続と同一である(同条一二、一三項)。これを本件についてみるに、前記認定のとおり、本件事業計画の決定及び変更については、公衆の縦覧及び都市計画地方審議会への付議の手続が履践されているから、何ら違法はないというべきである。右の手続とは別に、事業計画決定に当たり住民参加の機会を付与し、計画内容について住民に説明すべきことを定めた法令上の根拠は存在しない(もっとも、事業の内滑な遂行を図るため、施行地区内の住民の総意が得られるよう施行者において種々配慮することが望ましいことは多言を要しないが、これは事実上の運用の問題である。)。したがって、仮に、前記供述のような事実があったとしても、それを理由に本件事業計画が違法であるということはできないから、原告らの主張は失当であるといわざるを得ない。なお、前記認定のとおり、被告は、東京都都市計画地方審議会の附帯意見の趣旨に沿い、三七号線の構造につき地元住民と協議を重ね再検討を行っているから、被告が附帯意見を無視したとの原告らの主張は前提においても失当である。

四  原告らは、本件仮換地指定は将来換地として指定されるべき土地の位置範囲を仮に指定する換地予定地的仮換地指定であって、換地計画に基づき行う必要のものであるところ、被告において換地計画を定めず、関係権利者に意見書提出の機会を与えなかったから違法であると主張する。

1  本件仮換地指定が換地予定地的仮換地指定であること、被告が本件仮換地指定を行うに当たり換地計画を定めていなかったことについては当事者間に争いがなく、また、被告の主張一4ないし6のとおり、被告が本件仮換地指定を行うに当たり、土地区画整理審議会委員と施行者で構成する協議会を開催して換地設計案を検討し、換地の位置と形状を内容とする換地設計案を関係権利者の閲覧に供し、提出された意見書の処理のため協議会及び意見書提出者に対する説明会を開催した後、換地の位置及び形状のほか地積、周囲長及び指数をも内容とする換地設計案をまとめ、これを関係権利者の閲覧に供し、提出された意見書の処理のため更に協議会及び意見書提出者に対する説明会を開催し、意見書の処理を終えた池袋四丁目の区域について将来定めるべき換地計画の一内容となる換地設計を作成し、これについて土地区画整理審議会の承認を得た後、本件仮換地指定を行ったことについても、当事者間に争いがない。

2  法九八条一項は、仮換地指定を行える場合の一として「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」を掲げ、この場合の仮換地指定については前もって換地計画を定めておくことを要求していない。本件仮換地指定が「工事のため必要がある場合」に該当するものであることは、弁論の全趣旨により明らかである。したがって、その限りにおいては、本件仮換地指定は法九八条一項の規定に適合し、適法というべきである。問題は、本件仮換地指定が工事のため必要なものであると同時に、換地予定地的仮換地指定である点にある。そこで、法九八条一項の「工事のため必要がある場合」としては、工事のための一時利用地的仮換地の指定のみを行えるか、あるいは、工事のため必要なものであれば換地予定地的仮換地の指定も行えるかが問題となる。よって、検討するに、法九八条一項は、「工事のため必要がある場合」の仮換地指定として、一時利用地的仮換地の指定のみに特に限定することを規定してはいない。また、法は、仮換地指定の手続、効果等について、一時利用地的仮換地と換地予定地的仮換地とを特に区別しておらず、いずれの場合であっても、仮換地の指定は換地計画決定の基準を考慮してしなければならないとされており(法九八条二項)、更に仮換地指定についても不服申立てができる(法一二七条の二)ことを考えると、法九八条一項は、「工事のため必要がある場合」の仮換地指定として、換地予定地的仮換地の指定を排除するものではないと解するのが相当である。

ところで、法一〇三条一項は、「換地処分は、関係権利者に換地計画において定められた関係事項を通知するものとする。」と規定し、換地処分をもって換地計画において定められた事項を確定する処分としているから、換地計画が関係権利者の個別的権利に直接かかわるものであることは明らかである。そこで、法は、換地計画を定めるに当たっては、あらかじめ換地計画案を二週間公衆の縦覧に供しなければならず(八八条二項)、利害関係者にこれに対する意見書提出の権利を与え(八八条三項)、右意見の採否について慎重な事後処理方法を定め(八八条四項)、換地設計案の作成及び右意見書の内容審査につき土地区画整理審議会の意見を聞くべきものとし(八八条六項)、換地計画を定めるについて利害関係者に対し実質的に関与する機会を与えてその権利保護を図っている。換地計画に基づかない換地予定地的仮換地指定の場合も、最終的には換地計画に基づく換地処分がなされるのであるから、利害関係者において換地計画に関与する機会を全く奪われるわけではない。しかし、土地区画整理事業の工事、特に建築物等の移転工事完了の後に換地計画に対する関与の機会を与えても、その実効性を減殺された形式的なものに終る可能性が強い。したがって、換地計画に対する関与の機会を全く与えないままに換地予定地的仮換地指定を行うことは、法八八条の法意を潜脱するもので、違法の疑いが存するといえる。

そこで、右の角度から本件仮換地指定を検討するに、前記のとおり、被告は、本件仮換地指定に先立ち、換地の位置及び形状を内容とする換地設計案を作成して関係権利者の閲覧に供し、提出された意見書について、土地区画整理審議会委員との協議会で検討するとともに、意見書提出者に対する説明会を開催して関係権利者の意見の換地設計案への反映に努め、更に換地の位置及び形状のほか地積、周囲長及び指数をも内容とする換地設計案を作成の上、関係権利者の閲覧に供し、提出された意見書の処理につき右同様の協議会及び説明会を開催した後、換地計画の一内容となる換地設計を作成して土地区画整理審議会の承認を得ている。換地計画の中でも関係権利者にとって最も重要な事項は、換地の位置、形状及び地積であるところ、これらの事項を内容とする換地設計が、右のように仮換地指定の前に関係権利者の閲覧に供され、その意見の反映のための処理がなされ、土地区画審議会の承認を経て作成されている以上、本件仮換地指定は、法八八条の要求を実質的に満たしているものということができる(なお、換地計画の内容をなすべきその他の清算金や町名地番の整理等については、工事完了の段階で関係権利者に示しても、遅きに失するということはない。)。そうだとすれば、たとえ換地計画が定められていなかったとしても、本件仮換地指定を違法ならしめるものではなく、まして無効ならしめるほど重大明白な瑕疵が存するものということはできない。

3  なお、原告らは、被告が本件地区を工区に分けていないのに仮換地指定処分を数街区ごとに行うことは違法であると主張し、被告が本件地区を工区に分けていないにもかかわらず数街区ごとに仮換地指定を行っていることは当事者間に争いがないが、このような仮換地指定を禁ずる法律上の根拠はない。原告らの主張の趣旨は、部分的仮換地の指定では本件地区全体の仮換地指定がどうなるかを知ることができず、公平な仮換地指定であるか否かを判断できないという点にあるが、前記のとおり、本件地区全体の換地設計案が関係権利者の閲覧に供されている以上、主張のような弊害は生じないと認められる。また、数街区ごとに既成事実が作られ、その変更を求めることが事実上できなくなるから、関係権利者の争訟の権利を奪うものであるとの主張についても一筆ごとの仮換地指定であれば別として、数街区ごとの仮換地指定では、指摘のような弊害が生ずると認めるのは困難である。したがって、原告らの右主張も採用できない。

五  原告らは、本件事業の換地設計案の作成手続には公平の原則及び適正手続に違反した違法があると主張し、その理由として、第一に、換地設計案の作成前の段階において、被告が土地区画整理審議会委員等一部の関係権利者からのみ換地設計に関する意見を聴取し、これらの者から仮縦覧前に提出された要望書を受理し参考に供したこと、第二に、合併換地の採否を決定するに当たり、専ら当該宅地所有者等権利者の要望があるか否かを基準としたこと、第三に、被告が私道処分に関連して現地調査を実施した際、立会を要請した関係権利者に対する説明が不十分であったこと及び私道処分に当たり関係権利者の意見を聞かなかったことを挙げる。

1  第一の点についてみるに、被告が、昭和四三年九月一八日から昭和四八年五月一一日までの間、土地区画整理審議会委員と施行者とで構成する協議会を四八回開催し、そこで換地設計について検討を加えた後、換地の位置、形状に関する換地設計案を作成し、同月二八日から関係権利者の仮縦覧に供したことは当事者間に争いがなく、また、《証拠省略》によると、右の仮縦覧の以前に一部の関係権利者から換地についての意見書、要望書が提出されたことが認められる。しかし、換地設計にできるだけ関係権利者の意見を反映させるべく、関係権利者により選挙された右委員を加えて協議会を開催し、右委員が自己の分を含め換地に対し述べる意見を参酌して換地設計案を作成しても違法とはいえない。また、仮縦覧前に関係権利者が提出してくる意見書を参考にしたからといって、それのみで違法とすることはできない。問題は、関係権利者全員に意見を述べる機会を与えたか否かであるところ、前叙のとおり、被告は、換地設計案を関係権利者の仮縦覧に供し、関係権利者全員に意見書提出の機会を与え、提出された意見書をすべて検討した上で換地設計案をまとめているのであるから、換地設計案の作成に違法はないものというべきである。

2  次に、第二の点についてみるに、換地設計にはできる限り関係権利者の意見を反映させることが望まれるから、合併換地の採否を検討する際に関係権利者の要望の有無等を参酌したからといって、換地設計案の作成を違法ならしめるものとはいえない。

3  更に、第三の点についてみるに、《証拠省略》によると、被告は私道の利用状況を把握し、その境界線を確定するために現地測量を実施し、関係権利者の立会いを求めたこと、その際、立会人に対しては、測量の目的が右のとおりであることは説明したが、測量の結果を私道処分に関する資料として使用することまでは逐一説明しなかったことが認められる。しかし、被告が私道に対してどのような取扱いをするかは、その後の換地設計案の中で明らかにされるのであり、これに対しては、関係権利者は仮縦覧のときに意見書を提出する機会が与えられているのであるから、測量の際の関係権利者に対する説明としては、右の内容で十分であり、何ら不公平であるとはいえない。また、被告が私道処分に関して意見書提出の機会を与えている以上、意見を聞かなかったとする原告らの主張も理由がない。

以上のとおりであるから、換地設計案の作成手続に公平の原則及び適正手続に違反した違法がある旨の原告らの主張は失当である。

六  原告らは、本件事業の仮換地指定及びその一環である私道処分には公平の原則に違反した違法があると主張する。

1  原告らは、被告が、街区番号四、三七及び六一において土地区画整理審議会委員に対し有利な仮換地指定を行い、また、訴外教会に対し有利な仮換地指定を行ったと主張する。そして、証人大野嘉章は、街区番号四の同委員柳沢に対する仮換地指定は片山に対するものに比し、街区番号三七の同委員里見に対する仮換地指定は三原に対するものに比し、それぞれ有利であり、また、街区番号六一の同委員佐久間及び街区番号五一の訴外教会に対する仮換地指定は極めて有利なものである旨証言する。しかしながら、《証拠省略》によると、右の柳沢らに対する仮換地指定(ただし、里見及び三原に対しては仮換地案の提示)は、被告の主張六1のとおりのものであることが認められる。施行者が仮換地指定に当たって、合理的理由もないのに故意に特定の者に対し有利な指定を行い、あるいは特定の者に対し著しく不利益な指定を行った場合には、当該指定は、公平の原則に反し違法であるということができる。しかし、右の柳沢らに対する仮換地指定は、被告の主張六1のとおりそれぞれ合理的理由を有するものであるから、これを違法ならしめるような公平の原則違反の瑕疵が存するとはいえず、これを無効ならしめるような重大明白な瑕疵が存するとは到底いえない。

2  また、原告らは、被告が街区番号二三でも土地区画整理審議会委員に対し有利な仮換地の指定を行っていると主張する。この主張に沿い、証人高野泰治郎は、同委員大内直吉所有の池袋二丁目八九六番七及び八九七番四の土地は私道であるにもかかわらず、私道処分の対象とされず、仮換地が交付されていると証言する。しかし、《証拠省略》によると、被告は従前の私道につき一定の基準に基づいて私道処分の対象とするか仮換地交付の対象とするかを判断したものであって、私道処分の対象とならなかった私道は本件地区内に多数存在することが認められる。そうだとすれば、大内直吉の右土地が私道処分の対象とならなかったというだけでは、それが違法なものということはできず、それが公平の原則に反し違法ないし無効なものであることを認むべき証拠は存しない。

3  次に、原告らは、被告が池袋二丁目八九三、八九六及び八九七番地先の私道を存置させたことは著しく不公平であると主張する。《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

被告は、本件地区内の公道から公道へ抜ける幅員二メートル以上の私道は私道処分の対象とすることを基本原則とした。このような私道は、従来準公道的な役割を果たしてきたものであるが、区画街路の造成によって、もはや存置する必要がないからである。原告らが指摘するもののうち池袋二丁目八九三及び八九六の各番地先の私道は、本件地区の東南隅にあり、公道から公道へ抜ける幅員二メートル以上の私道であるから、被告が定めた私道処分の基準には一応該当している。しかし、被告は、私道処分をしないで私道として存置することとした(なお、八九七番地先の私道は存置することとしていない。)。その理由は、次のとおりである。すなわち、右の私道に接する宅地は合計一〇筆(八九三番五、六、八、一〇、一一、一六、八九六番二、八、九、一〇)あり、右の私道を間口にして営業している者が六軒あって、もし原則どおり私道処分を行うと、これらの者の営業に重大な支障を及ぼすことになる。そこで、区画街路の造成が考えられるが、街区が小規模に分割される上、区画街路の幅員は最低四メートル以上を要するので、減歩率が高くなって関係権利者に更に負担を強いることになる。以上の点を考慮して、被告は、唯一の例外的措置として従来の私道を存置することにしたものである。

右の事実によると、被告が右の私道を存置させたことには合理的理由が存し、これを不公平なものということができず、これを不公平とする証人高野泰治郎の証言は採用できない。

以上のとおりであるから、本件事業の仮換地指定及びその一環である私道処分が公平の原則に違反する旨の原告らの主張は失当である。

七  原告らは、原告らの各仮換地は各従前地の位置、地積、地形、環境等と比較して著しく不利であり、照応の原則に違反した違法があると主張する。

1  法九八条二項は、仮換地する場合においては、「この法律に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない。」と規定しているところ、法八九条一項によると、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」と規定している。土地区画整理事業は、土地の区画形質を変更し、道路、公園等の公共施設を新設、変更するものであるから、あらゆる条件が従前の宅地と照応するように換地あるいは仮換地を定めることはほとんど不可能に等しいといわなければならず、法も、換地設計技術上ある程度避け得ない不均衡については清算金をもって調整することを予定しているのである(法九四条)。したがって、右の規定の趣旨は、換地又は仮換地が所定の諸要素を全体的、総合的に斟酌して、従前の宅地と大体において同じ条件の下に公平に定められるべきことを規定したものと解すべきであり、換地又は仮換地が従前地と完全に符合しない場合であっても、当該指定が直ちに違法となるものではなく、右諸要素を総合的に考察してもなお、換地又は仮換地が従前地と著しく条件を異にし、あるいは、合理的理由もなく他の権利者に比して著しく不利益であるという場合でない限り、当該指定をもって違法とすることはできない。

2  そこで、これを本件仮換地指定についてみるに、原告らは、宅地の狭小化、周囲の建物の高層化による通風及び日照の障害、角切りによる宅地の不整形化、交通公害の増大などを挙げて照応の原則違反を主張する。

しかし、原告らの指摘する諸問題は、区画街路及び公園の設置に付随して必然的に発生するものであるところ、区画街路及び公園の設置は、一方で、宅地の位置、形状、日照、通風、利便性等を改善し、地域内の災害の防止、衛生の維持、交通安全の確保、水道管・下水道管・ガス管等の収納に寄与するものであるから、原告ら指摘の諸弊害を相殺するものというべきである。例えば、原告らの減歩率は平均をかなり下回っているところ、その中でも最も高いのは原告池田の一四・八パーセントであるが、《証拠省略》によると、従前地は公道に面しない土地であったところ、仮換地は区画街路に面し、その位置が著しく改善されているのである。また、角地は、他の仮換地に比し位置的に通常有利なものといえるから、角切りによる不整形化はある程度やむを得ないものといえるのである。したがって、原告ら指摘の問題があるからといって、原告らの各仮換地がその従前地と著しく条件を異にし、本件仮換地指定が違法なものと直ちに認めることは困難である。

その他、原告ら提出の《証拠省略》をもってしても、本件仮換地指定を無効ならしめるような重大明白な照応違反の存することを認めることはできない。

八  以上のとおりであって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 大藤敏 裁判官菅野博之は海外出張中につき署名捺印できない。裁判長裁判官 泉徳治)

〈以下省略〉

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